ばくん、と巨大な口が閉じるような音を残して視界が触手に埋め尽くされる。

触手群の内側に飲み込まれたリースの眼には、逆に月が食われたようにも見えた。

或いはその光景が、相手はヒトでは到底適わない存在であるという印象を
暗示の掛かり易い状態にあるリースに深く刻み付けたのか、
彼女は一瞬、自由落下に身を任せるまま放心してしまう。


が――直後、ぐんっ、と肩が外れそうになるような負荷と共に、上腕を電流めいた痛みが走って掴心(かくしん)し直すことになる。

自由落下が止まった。

だというのに、足の下には何も無い。



「っ――?!」

負荷を受けて放心から立ち返ったリースはすぐさま片手が触手に捕縛されている事を認識し、
自身が宙吊りになっている状況を把握する。

捕まったのは、槍を持っている方の腕だ。

それも巨漢が三人がかりでねじり上げたような恐るべき強度で、
動作の要である手首を完全固定されてしまっている。


辛うじて動く指先二関節で槍を投げ自由な側の手に持ち替える事も考えたが、
直後一切の抵抗を封じるように身体を大きく揺さぶられ、
放し掛けた槍を咄嗟に握り直す。

不規則に上下右左、更に前へ後ろへとも振られるリースの身体は
手一本を支点に宙吊りされているため、抵抗の術を持ち得ない。

相手がリースの身一つの重量を己の一部と同等ほどの軽さで扱えるのならば、
その身が脚根ざす大地を失っている以上、どうしようもなかった。


ともかくも有利な姿勢を得ようと、拘束された腕を基点に脚を振って、
身体全体に掛かっている慣性とは別の慣性を生み出し、手首を傷めることを覚悟の上で
手首を拘束している触手の上に跨ろうと考える。

ピタリと白脚を揃えて折り曲げ、腕の力だけで50度の角度を前方に得るとそのまま脚を勢い良く蹴り出す。

細い肢体を反動が駆け抜けて慣性が生まれ、
手首を基点に後方への振り子運動が行われる。

リースの身体能力ならば三度――いや、身体全体に別ベクトルの慣性が掛かっている事を考えると、多くてその倍――だが十と数える必要もなく触手の上をとることができるだろう。

一回、二回、

器用に身体を屈伸させて振り子運動に勢いをつけ、
次の動作に備える。

――が、


「ぁ…っ…!!」

拘束された腕を掴んでいるもう片方の手の指先に、ぬるり、と舐めるような感触を覚えて
加速のタイミングを外してしまう。

しかし事態はもはやそれどころではない。

拘束された腕に酷い負担が掛かる事を承知で腕から手を離し、
まだせめて自由な手を逃がそうとする。

しかし触手は俊敏だった。

ぬるぬるっ、ぬるぬるぬるぬるぬるっ!!!

逃がそうとした手の指先を素早く捕らえると、伝って手首に絡みつこうと恐るべき速度で這い進んでくる。


「っ…!!」

これを咄嗟に握りこんで止めようとするが、触手に纏わり付いた不快な粘液と、速さ、強引さは
日々槍を握り込んでいる手の握力をものともせずにぬるぬると潜り抜け、
瞬く間に槍を持つ手同様、自由だった手の拘束を完了してしまう。


その間、僅か一秒足らずの攻防。


更なる優位を占めた触手の侵攻は、そこからまた更に早く、加えて圧倒的だった。




拘束された手首から、更に肘、上腕の半ばにまで螺旋軌道で這い進んで腕の動作を封じ、
同時に野太い触手を伸ばして、しなやかな筋肉に細められた胴部を拘束。


拘束された胴は強制的に振り子運動を止められ、
そのまま腹部を前へ、両手を後ろへと引っ張られる。



「――!!」

結果大きく張り出されることになった胸の上で豊満な双玉がぶるんっと揺れ、一瞬リースの顔を硬直させた。


あまりにも見事に揺れた肉果実を見て触手が一瞬我を忘れたように動きを止めるが、
一瞬の隙とも言えるこの好機の瞬間に、しかしリースもまた動きを止めていた。




清貧を美徳として、過剰な栄養を摂取してきたわけではないのに
同年代のそれと比べてもかなり豊かに実ってしまった乳房は
戦士であるリースにとって大きなコンプレックスだった。

実質それは男女問わずして視線を引き寄せずにいられないほど
見事な形を保ったまま芸術的な膨らみを得た至玉の双乳なのだが、
純情潔癖なリースには、まさしくそれが嫌で嫌でたまらない。


乳房という一種のセックスシンボルをこんなにも大きく膨らませてしまった自分の肉体が酷い淫乱に思えてならず、

また時折、もの言いたげな視線を同年代のアマゾネスから集めてしまうため、
いつも肉体のはしたなさを責められているような気がしてならずにいたのだ。


そんなコンプレックスの塊をもう一度主張させようと、
触手がリースの身体を縦に揺らす。





ぱよん、 ぱよん、 ぼいんっ


迫り出されて完全に自由を得た二つの姫乳が瑞々しく弾み、無邪気なまでに上下へはしゃぐ。

下に揺れてはエロティックな紡錘を作り、上に揺れては、ばいんっ、とゴム鞠のように乱反動し、
微妙に左右への動作が混ぜ込まれると左右別々に動いて別れ、
そのすぐ後には逆反動で潰し合うようにぶつかって、たゆん、と歪んだ。

……そうしている内に、破れた胸元でどうにか引っ掛かっていた胸部の布が捲れ落ちてゆく。


しかし両手を封じられたリースにはそれを引き上げることはおろか、
食い止める術すら残されておらず――




「っ//////、っ////////、」


先の鞭撃で既に方乳房を露出させられていたリースの身体は、
ほどなく、その上部全てを暴かれてしまうのだった。




コンプレックスの塊を二つとも丸出しにされてしまっているという羞恥心が心臓をかきむしり、
そんな場合ではないというのに、顔が耳まで熱くなるのを感じる。


触手の一本一本から感じる人間のそれと良く似た気配や、そこかしこから『眼』が送ってくる恥房への熱い視線が
よりいっそうリースの恥じらいを煽り立てているのだった。


しゅるっ…ぬるぬるぬるぬるぬるっ!!!


「――?!」


羞恥に強張る少女の肉体が抵抗を忘れた隙を突いて、
ぶらんと振り子エネルギーの残滓で揺れる脚が、触手に捕縛される。


直後リースがコンプレックスの渦から脱するが、
その時既に触手は、風に愛されたような細い足首から柔軟な筋肉でむっちりと肉付いた太腿に至るまで、
何週もの螺旋を巡らせ終えているのだった。



   

 

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