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これがもし他のアマゾネスだったならば覚悟を決めて自決するも、或いはいっそ潔く心身とも相手にくれてやるも、
何れにせよ勝者は得て敗者は失うという自然主義に従った選択をしていただろう。


しかし――リースはアマゾネスとしての教育と同時に、姫君としての教育も受けていた。


それらはどちらも気高さという点に於いては変わらない方針だったが
本当にどうしようもならない窮地に立たされてから先の、振る舞いの躾についてがまるで逆の指針を示しているものだった。


第一に生存する事。
如何なる恥辱を受けようとも、その胸にまだ戦士としての矜持が在る限り、最後の最後まで戦う事をやめないという武人の意思だ。


しかしどのようにしても耐え難く、避けられない事態を迫られた瞬間は、

アマゾネスたるもの、それでも尚、
己の肉体が地に倒れる勢いまでもを槍の一刺しに用いるべしと、意識を失う瞬間の動作までもを叩き込まれるものである。


……が、王女たるリースに至っては、その限りではない。


ローラントは、リースが女王として十分に育ちきる前に先代女王ミネルバを喪ってしまったため
一時的に王が統治する形を取っていたが、本来女王統治のもとで営まれる女系国家だ。


したがって『血』は女性を主体に受け継がれるものと考えられ、
王女であるリースにはその血を残すため、あらゆる手段を用いるよう『屈服』の調練も施されているのだった。




その躾は、戦士同様、一に生存。
そして王女たるものは、二にも生存を条件付けられる。


眠くなれば目蓋が落ちるほどに、生理的反応の無意識層まで刻み込まれた『屈服』は、
それよりも外側に在る意識や矜持、主義主張をどれほど振り絞っても手を出す事のできない、絶対的なものだった。


或いはそれは、誇り高いリースが決して自ら命を散らす事の無いようにと、

……そうするぐらいならば、誇りも何もかもを捨て去ってしまいなさいと、

何より誇りを重んずる筈のアマゾネス達が
歴史と伝統、信念、魂に背いてまで姫君を愛した末の……呪いとすら呼べる情念の業でもある。



そのなんたる強烈なことか、



意識のスイッチングを仕切りとして相反する教育を施されたリースは、

――外付けしたものとは言え、或いはその総量だけならば、
一つの物語の勇者にも成り得たかもしれないほどの勇気をさえもかき消され、

今や心の底から怯え縮んでいる。


致死手前の薬物催眠と何発もの鞭で仕込まれた、
『卑屈ながらにも、どんな願いでも聞いてやりたくなるほど胸ときめかせる哀願顔』を浮かべ、

当初は『意思の疎通が不可能なバケモノ』と見なしていた相手に、必死で哀れみを誘う言葉を掛けている。



矜持は在る。
在るのに…勝手に顔が哀れに歪み、卑屈な哀願が頭を巡り、情けない声がそれを紡いでしまう。



表層と深層の意識が矛盾する苦しみは…あまりに惨めな心地だった。



惨めであると同時に、そこはかとない従属の安心感が胸に広がり、脳が痺れた。



それが尚の事惨めで、気が狂いそうになる。



しかしそれをも矯正済みなのか、脳の痺れはまず最初に自尊心を麻痺させてゆくのだった。



するとひたすらに情けなく、助かりたいという感情だけが溢れ出して、どうしようもなくなる。



途切れがちに拙い哀願を続ける口が、一層拙い弱々しさを見せ、
無意識的に慈悲と保護欲をそそり立てんとしてしまう。



――が、



   

 

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